2008年06月30日

宇多田ヒカル「HEART STATION」

HEART STATION / Stay Gold
HEART STATION / Stay Gold
posted with amazlet at 08.06.29
宇多田ヒカル
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) (2008-02-20)
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<胸のうちの想いを、インタラクティブに伝え合う>

 宇多田ヒカルの楽曲は不思議なところがあって、そこまで派手なメロディラインやアレンジや言葉でなくても、すっと入ってきて耳に残りやすかったりします。これが「声の良さ」ということなのか、何かはっきりした技巧があるのか、それとも気のせいなのか…ずっと不思議に思っています。
 今作も、『私の声が聞こえてますか?』のあたりなど、他の人が歌ったら違和感がありそうなラインをすっと歌いこなしているのを聴いて、やっぱり悩んだり。

 で、この歌のテーマは「伝わる/伝える」ということ。
 言葉にしていない/できない気持ちを、届いているのかどうかと投げかける。伝わっていってほしい、その想いを発信する人々それぞれが「Heart Station」=心の放送局を抱えているんだ、というようなところでしょうか。
 そんな観点を盛り込みつつ、フォーカスしているのは深夜に邂逅している『ワケありげな二人』のこと。歌詞を読んでいくと、どうやら別れ際のようです。お互いの行き違い、口に出そうとしてもきちんと伝えられない感情…そんな中でなんとかして胸のうちの複雑に絡まった感情を「伝えたい」、そんな切々とした想いが綴られているように思います。

 すごいのは、そんな風にひとつのドラマを浮かび上がらせつつ、この「伝わる/伝える」というテーマを一般的な内容まで広げてもいること。
 まず、忘れようとするほど『どうして/いい思い出たちばかりが残るの?』なんてぐさっとくるフレーズで「ワケありげな二人」の物語も印象付けています。かつ「Heart Station」という単語を生み出し効果的に使うことで、どんな人でも心の声を発信しているんだ、ということを暗に主張しているのですね。
 『私の声が聞こえてますか?』から『今もぼくらをつないでる』と一人称がシフトして広がっている点なども、裏付けとして指摘できそう。


 で、さらにどうしても押さえておきたいポイントがひとつ。 この曲中で示されている「想い」の伝わり方は、「伝える」意図に溢れていながら、必ずしもしっかりと伝わるとは限りません。
 『心の電波』と表現されたり、はじめのほうにシーンの小物として登場する「ラジオ」にかけて『リクエスト』などと表現されてはいるけれど、それはシグナルではない。発信すれば必ず届く、というわけではないのです。そこには、チューニングが必要な『秘密のヘルツ』が存在し、波長が合えば伝わる、しかし合わなければ伝わらない…という形なんだと示されています。

 「伝える」ことができるか、あるいは自分まで「伝わる」かどうか。それは、頑張って何とかできるものではなく、『いつもどこかで鳴っている/二つのパルス』が共鳴したときにだけ、繋がるのです。
 恋人同士の一対一の関係でも、あるいはそれ以外の複数人でも、一方的な主張を投げ合うのではなく、お互いが同じものを共有することで、はじめてコミュニケーションが生まれる。…言ってみれば、そんな哲学がこの詞には宿っているのかなと。
 双方向で受け入れ合う、共鳴し合う関係。非常に現代的な捉え方だなあ、と感じます。


posted by はじ at 01:47| Comment(0) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(あ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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