2008年02月04日

藤兵衛ドンと農民たち「よろこびのうた」

よろこびのうた
よろこびのうた
posted with amazlet on 08.02.04
藤兵衛ドンと農民たち 藤原いくろう 甲本ヒロト
BMG JAPAN (2007/10/31)
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<古典と民俗音楽の融合、あるいは「民衆の歌」という位置付け>

 THE BLUE HEARTS、THE HIGH-LOWS、そしてザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトがベートーベンの第九を歌う。この試みは、“A Project The Present Time Classics”という、ロックとクラシックの融合を目標にしたプロジェクトがあり、その一環として企画されたものだそうです。

 そんなわけで、確かに甲本ヒロトがいわゆる「歓喜の歌」のメロディラインを歌っているわけなのですが、その内容がとにかくぶっ飛んでいます。『あのベートーベン/猪ベートーベン/鵜のベートーベン/絵の・・・』と、ひたすら50音順に「○のベートーベン」と歌っていくだけ。なんじゃそりゃ、とお思いでしょうが、本当にそれだけなのです。
 伴奏も、はっきりとしたものがあるのではなく、ひたすら祭りのような笛や太鼓のお囃子と、「あ、そーれ」みたいな宴席的にぎやかしが続きます。大胆なアレンジ!というどころの騒ぎではありません。

 「藤兵衛ドン」は間違いなく「ベートーベン」のもじりでしょう。和風というか日本の民俗音楽風にしたのも、クラシックを日本らしくアレンジしたい、ジャンルの壁をぶち壊したいという思いによるものなのかも…という推測はできます。
 歌詞に関しては、「これは一見ナンセンスに見せかけて、実は深い意味が隠されていたんだよ!」…なんて考えても楽しそうですけれど、単に意味を付けたくなかったんだろうなあ、と思います。意味のある言葉を乗せず、この音楽そのものを楽しんでほしい!とか、「ジャンルの融合」のためには言葉は不要…とか。考えてみれば、ひらがな50音というのはすごく日本的ですしね。 さて、ここでちょっと元ネタにも触れてみましょう。
 この曲、「よろこびのうた」=「歓喜の歌」は、ベートーベンの第9交響曲のもっとも有名な合唱部分のことです。通称「第九」は、日本ではなぜかすっかり年末の風物詩になっていますが、特に関連性はありません。個人的には、合唱という形態や、シンプルで賛美歌にも似たメロディラインが、一連のクリスマスソングと近い感覚をもたらしたんじゃないかなーとか想像したりしますが、実際のところはわかりません。

 ここで考えたいポイントは、この曲、特に「歓喜の歌」は、いわゆるクラシックの「お堅い」イメージとは本来無縁の作品なのだというところです。
 そもそもベートーベンという人は、クラシック音楽の歴史の中では実に革新的で、それまでの既成概念を打ち破る新しい手法を持ち込んだ人でして。それでいて、ただ既存のシステムを壊すのではなく新しさを融合させて高次元のものを生み出す、というイノベーターのお手本のような存在なのです。
 そもそも「第九」だって、交響曲に合唱が付いている時点で相当に異端です。また当時は、ティンパニ以外の打楽器を使うことも珍しく、シンバルを使っているのも実は革新的なことだったりしますし。

 あと、どうしても第九と言うと「歓喜の歌」の圧倒的な力強さのイメージが強い人が多いことでしょう。けれど、実はあの楽曲って、「歓喜の歌」に至るクライマックスまでは、どちらかというと暗め・静かめ・おとなしめなのです。1・2・3楽章、そして4楽章の前半もそれまでの曲想を反復し、溜めに溜めた後で「違う、俺たちが歌いたいのはこんなんじゃないだろ!?」とばっさり切り捨て、そこでついに「歓喜の歌」に至るわけです。
 多少誇張と意訳が混じっていますが、少しは歴史的名曲が身近になったでしょうか。

 で、そんな「歓喜の歌」は、シラーという当時の思想家・詩人の「歓喜に寄す」という詩を元にしています。この詩が発表されてから第九の完成までは実に約20年の歳月があり、その期間の長さがこの詩へのベートーベンの思い入れを示しているかのようでもあります。
 内容は、生きる喜びを高らかに歌い上げるもの。原詩では『貧しき者らは王侯の兄弟となる』というフレーズを『すべての人々は兄弟となる』と書き換えたことからも感じられるように、すべての人間の自由と平等を称えようとする意志もまた感じます。そしてそうしたメッセージは、当時の時代背景に照らし合わせるでもなく、名もなき民衆たちにこそ響くものでした。

 長い遠回りをしましたが、「歓喜の歌」が当時の民衆を熱狂させる歌だったということは、まるで農民たちの祭りや宴を思わせる曲調のこの「よろこびのうた」にも繋がってくるように感じます。そこまでの意図が込められているかどうかはわかりませんが…


posted by はじ at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | J-POPレビュー企画もの | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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