2008年01月25日

CHEMISTRY「最期の川」

最期の川
最期の川
posted with amazlet on 08.01.25
CHEMISTRY CHOKKAKU 秋元康
DefSTAR RECORDS (2007/10/24)
売り上げランキング: 4309


<看取る側にも看取られる側にも、別種の感情移入できる余地がある>

 CHEMISTRYによる、映画「象の背中」の主題歌。
 歌詞は、はっきりと「死別」というテーマが表れている内容です。「消える」とか「終わる」くらいではっきりと示さないようにしているタイプの詞が多い中で、ちょっと珍しいくらい映画の原作者でもある秋元康の手によるものですし、映画との結びつきを重視しているのでしょう。
 とはいえ、さすがに「死」と言い切ってはいません。それは、ぼかすというよりはより綺麗さを際立たせるため、というところでしょうか。どう考えても「死」に向き合っている内容でも、はっきりと言わないことで、余韻を作っているわけです。「川」と表現しているのも、三途の川と直結させるんじゃなく、「向こう側に行く」というような婉曲的なものだと考えたほうがよさそうです。

 そしてこの歌詞は、看取る側ではなく、看取られる側の視点から語る形式になっています。自分の運命を悲しむことなく、穏やかに受け入れていく。そして、『君を残すこと/それがつらかった』『離れ離れでも/君のその胸に/僕はまだ 生きている』と、残していくパートナーに静かに言い聞かせるのです。
 視点は違えども、やはりこの歌は「看取られる側」のための歌というよりは「看取る側」のためにある歌なのだと思います。看取る側が「あなたはこれからも自分の胸で生きていく」というのもグッとくるものですが、やっぱり看取られる側本人が「あなたの胸で生きていく」と言ったほうが、説得力が増すというか。

 聴き手が感情移入しやすいのはやはり看取る側であるわけですが、ただし、看取られる側にもその余地は充分にあります。自分の運命を静かに受け入れる様子は、秋川雅史「千の風になって」が大ヒットした時代の流れにも、ちょうどリンクするものですし。死に行くものの視点からの言葉、そして『僕は陽射しになる』と自然に還るんだという意識があることなど、共通項を見つけられますね。
 それにしても、『太陽の近くで見守ってる』と、「太陽」そのものにはなろうとしない奥ゆかしさが面白いところ。日本人らしいというか、やっぱり日本の「自然に還る」メンタリティというのは、そういうささやかさが含まれるものなんでしょう。

 やたらと感動ものが濫造され、その中で死別ものもどんどん増えているような気がする昨今ですが、まあ流行り廃りは世の常なので。ただ忘れてはならないのは、この歌などでは「死別」がそのまま「純愛」の完成形として描かれているところです。
 看取られゆく人は、ただ「君」を愛しぬいたまま人生を終える。そこには、この先決して心変わりすることのない愛情が残るわけです。たった一人の相手、運命の人と心を通わせる「純愛」が今とても求められていて、それを満たす確実で効果的なシチュエーションが「死別」なのですね。
 自分としては、「死別」を扱った作品が増えていることに憤慨するというよりも、ひたすら「純愛」至上主義が加速していくことに不安を感じたりはします。

 あ、CHEMISTRYの二人は相変わらず歌が上手いです。全体にわりとベタなメロディラインなんですが、それをR&B的に表情豊かに聴こえさせるという点はさすが。


posted by はじ at 02:57| Comment(2) | TrackBack(0) | J-POPレビュー男性(か行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 秋元康氏は最近になっても作詞活動は好調ですね。

 それにしても、かつては秋元氏のような専業作詞家はポップス界では大活躍していたのに、近年では少なくなってしまったでしょう。秋元氏は「最後の大御所専業作詞家」と言える存在でしょうね。彼が亡くなったら、テレビや雑誌などでは阿久悠氏が亡くなった時と同じくらいの追悼企画が組まれるかもしれませんね。
Posted by 金魚花火 at 2008年01月29日 16:37
秋元さんは作詞家というよりももっと広い枠組みの人という印象ですねー。まあ、亡くなったりしたら、きっとコンピレーション盤が出るでしょうけれど。

どうも、90年代の後半くらいから、アーティストは自分の言葉を歌うべきという風潮が根強くある気がします。個人的には、作詞家のプロフェッショナルなセンスっていうのも、もっと大事にしていくべきだと思います。
Posted by はじ(管理人) at 2008年02月04日 00:03
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。