2007年12月04日

宇多田ヒカル「Beautiful World/Kiss&Cry」

Beautiful World / Kiss & Cry
Beautiful World / Kiss & Cry
posted with amazlet on 07.12.04
宇多田ヒカル Utada Hikaru Kawano Kei Bart Howard
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) (2007/08/29)
売り上げランキング: 1220


<「ほんの少し」の関係性に宿る「救い」/肩肘の張らない、身近な勇気付け>

 ダブル大型タイアップで話題になった、宇多田ヒカルの両A面シングル。前作の「Flavor Of Life」と合わせ、すっかり人気も復活した感があります。

 「Beautiful World」は、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の完全新作版と銘打たれた映画3部作の第1作、「ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:序」のテーマ。宇多田本人が大ファンで、かなり作品側を意識して曲を作ったとのことです。
 ピアノの音色が印象深く鳴り響くスタイリッシュな楽曲に仕上がっていて、はじめは違和感もありましたが、聴いているとけっこう馴染んでくるものです。また、歌詞は確かに意識しているなあという感じ。

 『寝ても覚めても少年マンガ/夢見てばっか 自分が好きじゃないの』というような自己否定、また『何が欲しいか分からなくて/ただ欲しがって』『言いたいこと言えない』というような閉塞感は、作品にも通ずるものですし、また現代社会に生きる若者の病理のひとつでもあります。
 そこに投げかけるのは、「僕」に対する「君」、というような他者との関係性からの救いです。重要なのは、決して「救う」「救われる」わけではないということ。つまり、上から助けようとしたり、何かを要求したりするのではないのですね。等しい関係を歌っているのです。
 それにしても、ただ『君の側で眠らせて』とだけ願っていますが、たったひとつの願いにしてはずいぶんとささやかです。『どんな場所でもいいよ』ですし、ほんのささやかな関係性を作ることを、ひたすらに願っているような印象を受けます。
 「救う」でも「救われる」でもなく、ただ側にいることだけの関係。そこに「救い」がある…そんなところでしょうか?

 多く深くを主張しない「ほんの少し」テイストは、『元気にしてるなら/別にいいけど』『気分のムラは仕方ないね』などのフレーズにも読み取ることができます。
 ただ、『自分の美しさ まだ知らないの』なんて言葉からは、その「ほんの少し」の関係性から相手を変えていきたいと願う、そんな意志も感じられはしないでしょうか。
 ちなみにこのフレーズですが、「エヴァ」原作のオープニングだった高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」の『少年よ 神話になれ』に共鳴しているような気がしているのは、自分だけでしょうか。 さて、「Beautiful World」の歌詞中では、「少年マンガ」が登場したり『最近調子どうだい?』なんて気さくな呼びかけが出てきたりと、とても親近感の沸くフレーズが差し挟まれていました。
 そして「Kiss&Cry」では、この傾向がより強く出てきています。

 『お父さんのリストラと/お兄ちゃんのインターネット/お母さんはダイエット』と韻を踏んで並べられる家庭風景は、リズムセクションのパンチが効いたR&B全開・近未来的なサウンドに乗るにはかなり無理があります。が、それをあえてやってのけてしまうのが、「Keep Tryin'」でも、その前からも脈々と受け継がれている宇多田らしさ。
 スタイリッシュな曲と声ながら、そこに親しみやすさやユーモア、日常性、肩肘の張らない気軽さを乗せることができるバランス感覚とセンスは、シリアスに飾りがちなJ-POP業界で、他の歌い手にはなかなか真似できない部分だと思っています。
 『今日は日清CUP NOODLE』とタイアップ先のCM商品名をどんと言ってのけてしまうのも、韻を踏みつつ、日常性を出しつつ、禁じ手に近いやり方を堂々とやってのけるユーモアを感じますし。

 『笑い飛ばしてがんばれ/あとはしょうがない』『うまくいかなくたって/まあいいんじゃない』といった緩いメッセージも、上に示した点と同じ匂いを感じます。総じて、真剣になり過ぎないように、聴き手が身構えないようにあえて崩してしるように感じられるのですよね。
 自分自身の弱さを奮い立たせようとしつつ、『考えすぎたり/守ってばかりいたって/さみしいじゃない』と投げかける、ここがこの曲の要点なのかなーと。何かと深刻に考えてしまいがちな思考回路を、「さみしいじゃない」と感覚に訴えて解きほぐそうとする。さらに『恥をかいたってかまわない』と、まずはとにかくはじめの一歩を踏み出させようと呼びかける…
 そう考えると、「Beautiful World」と非常に近いテーマになっている、と言えそうです。


posted by はじ at 23:31| Comment(2) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(あ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
覚えていますか?お久しぶりです。

長らく待っていました!「Beautiful World/Kiss & Cry」の考察を!(笑)
最近コメントはしてませんでしたが丁寧な考察をいつも拝見させていただいてました。
お忙しいでしょうが、更新やめないでくださいね(笑)。

はじさんの思考を読んでよりBeautiful Worldはエヴァを意識してつくられてるんだなぁと思いました。非常に興味深かったです。
でも「根性なしかもしれない」「別にいいけど」とかそういう部分は宇多田らしいなと思ってエヴァの曲に合わせながらも宇多田節は入ってるのかなぁと思うんですが、いかがでしょう?

ところではじさんはエヴァをご存知なんですか?けっこう詳しい話しぶり(笑)。
Posted by 硬水 at 2007年12月06日 21:41
ども、お久しぶりです。
平日は21時以降まで仕事がデフォルトの状況ですが、更新は減ってもやめるつもりはないのでそこはご安心ください。

宇多田ヒカルは口語表現とかユーモアとかを混ぜてくるのが実に巧いですよね。巧いというか自然にできるのがすごいところ。

エヴァは、流行った当時まさに中学2年で、どストライク世代です。本当はもっとあれこれ書きたかったんですけど、ブログの方針はあくまで曲単体での評価を中心にすると決めているため、やめておきました。
Posted by はじ(管理人) at 2007年12月11日 02:41
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