2007年10月06日

スキマスイッチ「マリンスノウ」

マリンスノウ
マリンスノウ
posted with amazlet on 07.10.05
スキマスイッチ
BMG JAPAN (2007/07/11)
売り上げランキング: 88389


<その海を満たすのは、「絶望」ではなく「喪失感」>

 すっかりベテランの風格も漂いつつあるポップス職人ズのこの夏のシングルは、熱さのない、淡々と傷心の胸のうちを描いていくミディアムナンバーでした。

 彼らの楽曲における詞世界は、どれもきちんと計算されたうえで構築されています。今回も例に漏れず、『君のいない海で生きていこうとしたけど 想い出の重さで、泳げない』なんていうキラーフレーズを中心に、「君」を失ってからの悲しみを、海に沈んでいくさまになぞらえて、全体をそのテーマでまとめ上げています。
 一緒にいるのが当たり前だった「君」…というありふれた素材も、『空気みたいだと思っていた 失くしたら息苦しくて』と「海に沈んでいく」イメージに合わせられ、そのぶん斬新さも感じられます。こういう点、巧いなあと感心してしまいます。

 ところで、「君」を失ってしまった主人公を包んでいるのは、途方もない喪失感です。『感覚が鈍っていく 何も聴こえない 目を閉じてるかもわからない』と、どんどん閉じた世界へと進んでいく。それが、暗くて遠い「深海」へ沈んでいくというように表現されているわけです。
 海に沈んでいくような喪失感。こうした描き方は、ちょっと気になるところです。
 『溺れてしまうのかなぁ』という思考がありますが、かなぁということは溺れているわけではない。『藻掻けば絡まり』ともあるけれど、曲からは、あまり激しくもがいて絡まっている感覚は漂ってきません。絡まるからもがかない、くらいの印象。
 激しく抵抗するのではなく、『体がただ沈んでゆく』。
『群青に染まっていく』ようにじわじわと、『涙も叫びも深海がさらっていく』。重く苦しい想いは、静かに淡々と深まっていくのですね。

 曲調も、哀しさや絶望がどーんと主張されるようなものではないです。スキマらしいきめ細やかなアレンジで、激しさはなくむしろ盛り上がり過ぎないようにしているんじゃないかくらいの抑制を感じます。ここにも、「深海に沈んでいく」ような「喪失感」を描こうとする意図を感じるのです。

 諦めきれない気持ちは、しかし外には向かわず、ひたすら内側でくすぶり続ける。もう一度会いにいくとかたまらずに叫びだすとかといったアクションには移さないけど、ひとりいつまでも感傷に浸る…
 激しく苦しみもがく絶望ではなく、ひとりいつまでもひっそりと抱え続ける。これが、現代の若者の感覚に沿っているんだろうなあ、という印象を受けました。 ところでメロディラインですが、「沈んでいく」歌詞展開に合わせ、下降系のラインが多いように感じました。…が、楽譜見てみるとそうでもなかったです。
 とりあえず、メロ歌い出しの下降ラインは、1拍ごとにコードも変わり、ずぶずぶと沈んでいくような印象を与えるためなのだろうと思うのです。全体としての作りは自分の思い違いっぽいですが、ここだけは意図があるんじゃないかなと。

 ファルセットの多用も、淡々とした雰囲気を醸し出すためのテクニックなのかなあと思います。地声でも歌えそうな高さも、すべて力の抜けた裏声にすることによって、盛り上がりや切迫感を排除し、静かに潜っていく展開を妨げないようにしているんでしょう。キーそのものも、そんなに高くないですし。


posted by はじ at 12:26| Comment(1) | TrackBack(0) | J-POPレビュー男性(さ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マリンスノウ大好きなんでしんみりしてしまいました。
素敵な考察読ませていただいてありがとうございます。
Posted by 88 at 2008年04月06日 22:53
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