2007年09月21日

チャットモンチー「とび魚のバタフライ/世界が終わる夜に」

とび魚のバタフライ
とび魚のバタフライ
posted with amazlet on 07.09.19
チャットモンチー 福岡晃子 橋本絵莉子
KRE (2007/06/20)
売り上げランキング: 9012


<広大な空と海の狭間を飛び泳ぐ強さ/絶望にふと気がついてしまう瞬間>

 5枚目となるシングルは両A面扱い(ただしもう1曲「風」もあり)。メンバー3人の全員が作詞を行っているのですが、両A面の2曲はどちらも福岡晃子の作詞。そして、まったく正反対とも言える内容になっています。

 「とび魚のバタフライ」は、爽快で抜けのいい明るいサマーチューン。『何て果てしない空!/ひこうき雲のらくがき帳』…気楽に聴くことができるこういう種のフレーズは、初めてくらいに珍しいです。たいていの楽曲は、先に詞を書くという特性の影響もあるのでしょうが、感情のこもったもの、内容の濃い言葉のものなので。
 そこへ行くとこの曲は、単純にホワイトブルーの青い空とネイビーブルーの青い海の、夏らしい穏やかな風景に心地よく浸ることができます。本人達もライブで乗れる曲にしたかったとのことですし、曲製作のレンジを広げるという意味でも、本流にはならないもののこういう曲があってもいいのかなと。

 一般層にアピールしたかった(もしくは、させたかった)のかなーとも思います。実際、とっつきやすいポップな仕上がりですし。ただ、あんまりポップに振り切れているので、ちょっと「かわいらしいガールズバンド」的に受け取られてしまっていそうで心配。そのぶんバランスを取るために「世界が終わる夜に」と両A面にしたのでしょうけれど…

 とはいえ、特に後半のほうの歌詞を読んでみると、決してただ雰囲気とポップイメージだけではないことがわかります。
 「とび魚」=「わたし」は空に向かって『もっと高く跳ねたら/見たことない景色がある』と思い、また海に向かって『深く 潜る きっと新しい水/飛び込んでも怖くないわ』と言ってのける。広がる空にも海にも、上へも下へもどこまででも進んでいこうとする強い意志がこれらのフレーズには宿っているわけです。
 水面を跳ねる「とび魚」を自分自身に重ねるモチーフとして据えたことには、ちゃんと意味があるのですね。


 そして、一方の「世界が終わる夜に」は、タイトルからして非常にダークで、重々しい内容になっています。 『わたしが神様だったら/こんな世界は作らなかった』というフレーズが象徴するように、この世界に対する絶望と諦めが、詞の全体を覆っています。そのダウナー具合は、『命の砂時計は/結局からっぽだったんだ』と人生を全否定するかのような言葉が出てくるほど。

 ここでの「世界の終わり」とは、いったいどんな状況を指しているのでしょうか。
 たとえば、失恋のショックで「あの人のいない世界なんて終わったも同然だ」というようなことでしょうか?違います。ひどく鬱屈した心情が延々と綴られてはいるものの、決定的な何かが起こったから世界が終わる、というような描写はありません。
 実際に世界が破滅するわけでもありません。自分自身が息絶えるわけでもありません。『今もどこかがいろんな理由で/壊れはじめてる』というフレーズは暗い響きを帯びていますが、「壊れはじめてる」ということはこれから先も壊れていくということ、まだ先があるということです。また、『暇つぶし出来る話題を くだらない笑い声と嘘を/探し続けるの』では、よりはっきり「探し続ける」と今後を語っています。

 つまりこの曲は、さまざまな要因で「世界の終わり」を感じながらも、それですべておしまいになる、という感覚ではないのです。
 時間は過ぎていき、そして何かあまり嬉しくないものがやってくる。辺りにはくだらないやり取り、『いけてないジョーク』が飛び交う。愛も命もたいした意味がない…そんな状況にふと気がついた瞬間に、『しまった!もう世界は終わっていた』と絶望した、そんなところでしょう。何か特別イヤなことがあったわけじゃない。「世界の終わる夜に」とありますが、これはその夜に「気がついた」というだけで、実際はずっと前から世界は終わっていたのです。そして、これからも。
 周りを取り巻いている鬱々としている現状は何も変わらないまま、それを「世界の終わり」だと感じたまま、それでも毎日は同じように続いていくのですね。世界は終わっていると感じている中で、『もう心は穴だらけだ』『また不幸の種がなる』なんていう状況の中で、これからも生き続けていかなければならない。そんな無力感/退廃感こそが、この楽曲のキモなのだと思うのです。


posted by はじ at 09:38| Comment(0) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(た行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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