2007年08月24日

桑田佳祐「明日晴れるかな」

明日晴れるかな (通常盤)
桑田佳祐 島健 山本拓夫
ビクターエンタテインメント (2007/05/16)
売り上げランキング: 260


<「郷愁」を受け入れつつも、ほんのちょっと前に踏み出そうと呼びかける>

 サザンオールスターズのボーカリストとして息の長い活動をしながら、ちょくちょくソロでも作品を発表し、ヒットを飛ばしている桑田佳祐。ソロ活動については、今年で通算4期目となるとのことです。

 内容としては、歌い出しは『熱い涙や恋の叫びも/輝ける日はどこへ消えたの?』とあり、過ぎ去った過去を思い返すところから始まります。で、この一文にもあるように、曲中には「?」で終わるフレーズが大変頻出します。Aメロのリピートでも、『耳を澄ませば心の声は/僕に何を語りかけるだろう?』と自問してみたり、『これが運命でしょうか?/あきらめようか?』と悩んでみせたり。
 ただ曲全体を見据えてみると、こうした「?」は、必ずしも疑問を投げかけているだけでなく、その問いかけを乗り越えていこうというような意志を感じさせるのですね。

 始まりこそ郷愁の念で、その後もなかなか煮え切らなさそうな言葉が続きますが、やがて出てくるのは『在りし日の己れを愛するために/想い出は美しくあるのさ』というフレーズ。これは、「想い出が美しく見えるのは、過去の自分を受け入れたいためだ」というような、揶揄を含んだ言い方だと感じます。
 で、過去に頼るのではなく、『もう少しの勝負じゃない!!』と鼓舞し、ほんの少しだけでも前を向かせようとする…それが、最後の『「明日晴れるかな…」』というつぶやきに繋がってきています。この部分だけは子どものコーラスが歌っているという珍しい演出になっていますが、その前の『誰もがひとりひとり』を踏まえての多人数でのコーラス、しかも「純粋な願い」という響きを出したかったからなのかなーと想像できます。
 とりあえず、郷愁に浸りながらも、想い出は想い出として胸に秘め先へと進んでいこうとする、そんな流れのある内容になっているわけですね。 さてそれにしても、桑田佳祐が、長いキャリアを続けながらいまだ第一線を走り続けているという事実は、実に驚くべきことです。膨大な作品を残しながら、それでも飽きられないでいつの時代もヒットするのは、なぜなのでしょうか。
 
 ひとつには、彼の曲作りの技法が関係しているかと思われます。まずメロディラインを練りながら、デタラメな英語などをまずは仮歌としてそこに乗せていく。そこから、メロディに合った言葉に置き換えて、合わせて全体の構成を作っていく…というものです。
 このやり方だと、テーマは後からできてくるものですから、まずテーマ決めで悩むことはないわけです。また、言葉選びには偶然性も関係してくるので、方向性も多様になりやすい。エロティックなものから純情なものまで、多彩な作品が生まれてくる土壌になります。韻を踏んだり、自らの造語を混ぜたりもしやすく、オリジナリティにも繋がります。また、メロディラインに適した言葉が乗りやすいというのも大きなメリットですね。
 このやり方は、どんな作風でも清濁併せ呑む彼だからこそのものでもあります。「歌いたいこと」がはっきり決まっている歌い手では、自分の発したいメッセージ以外のことは歌いたくないわけで。そういう意味でも、桑田佳祐という人は、何らかのこだわりを持って活動するアーティストというよりは、どんな音楽でも作り上げて歌い、聴き手を楽しませてくれるエンターテイナーだなあ…と感じます。

 『「愛」なくして「情」も無い?』なんて言い回しも、おそらくはこうした作風から出てきた言葉です。これだけだとやや言葉足らずにも感じますが、うまく聴き手の想像力を刺激させるくらいの絶妙な「少なさ」だなあと。括弧を付けて語を対比させるなど、イメージを喚起しやすくもしていますし、やっぱり熟練の技を感じます。
 で、このフレーズを見て、思い立ったのですが。桑田佳祐の歌詞における大きな特徴は、「情」という概念なのかな…と思いつきました。「情」…他のミュージシャンは「感情」とか「愛情」などといった単語はもちろん使いますが、「情」という語を使いこなせる人は、他にぱっと思いつきません。
 「情」という言葉には、深みがあります。愛情、友情、感情、情け…そういった概念をすべて取り込み、なおも余りある深さ。「慕情」という語も頻出しますが、これも「情」をより外側に向けたような、深みがそのまま残る語ですよね。これが「情念」になると、演歌の世界ですね。非常に日本的な感覚も受けます。
 その深みある言葉を、その言葉の持つ感覚を引き出せることが、桑田佳祐の強みなのかもしれません。フレーズのイメージ喚起力に加えて、この語や描き出す世界の持つ深さが、彼が生み出し続ける音楽世界を飽きのこないものにする強力な手助けをしているんじゃないかなー、なんて考えてみたのですが、いかがでしょうか。他に誰も使わないから独壇場だし、とても日本的な感覚で誰にも馴染みやすいですし…

 エロにしても純情さにしても、派手な曲にも地味な曲にもそれぞれに合った形で「情」を漂わせることはできます。この感覚が、第一線で活躍を続ける桑田佳祐の強みになっているんじゃないかなと、今回ふと思いついたのでした。


posted by はじ at 04:04| Comment(0) | TrackBack(0) | J-POPレビュー男性(か行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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