2007年06月26日

コブクロ「蕾」

蕾 (通常盤)
蕾 (通常盤)
posted with amazlet on 07.06.26
コブクロ 小渕健太郎
ワーナーミュージック・ジャパン (2007/03/21)
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<印象深さを与えるための、音と言葉の工夫とは>

 ドラマ主題歌採用はこれで4作連続となるらしい、コブクロのミディアムバラード。もはや盛り上げ役として確固とした信頼を得ているようです。
 それもそのはずで、彼らの生み出す楽曲はどれも、真摯な感情を込めようとする詞にドラマティックなメロディラインが合わさり、さらにハモリも加わって、とにかく感動を増幅させるたえに心血が注がれている感があるのですね。

 彼らのメロディラインの特性については「ここにしか咲かない花」「君という名の翼」の際にいろいろと述べました。平たく言えば、前者は「曲のピークが持続する」後者は「山が何度も何度もやってくる」という形式になっていまして。そして、どちらにせよポイントは「盛り上がり」を印象付ける、ドラマティックに聴かせるメロディラインに作られているということです。

 今回もそれは同様。特に目立つのは、「フレーズの引き伸ばし」ですね。
 わかりやすいところで、小節数を数えてみましょう。一般的な楽曲では、4小節くらいを単位にして、8小節や16小節でメロやサビのひとまとまりができていることが多いわけです。それぞれのパートの繋ぎで増えたりすることもありますし、可変ではありますが。
 「蕾」の場合、Aメロこそ8小節ですが、Bメロは10小節。これは主に、次のサビへのつなぎの部分、『きっと きっと きっと わかっていたはずなのに』でひと盛り上げがあるためです。まず「きっと」をハイトーンで3回繰り返してから、いったんメロディは下に戻り、そして再度上がっていって伸ばし…と、サビ直前でしっかりと展開の足場を固めまくっているわけですね。
 そしてサビ、こちらは12小節です。5〜6小節めでひとつピークがあって、そのまま8小節でもまとめられそうなのですが、そうではないんですね。9〜11小節めでは、『上手に乗せて 笑って見せた あなたを思い出す』と同じ型の上昇音型が3回繰り返し。…で、さらにおまけ、最後12小節めで『一人』がつく、と。
 その後の伸ばし2小節ぶんも、コードの完結を考えると含めたほうがいいんでしょうか。そうすると、8小節でも終われそうなところを実に14小節やっている、という形になります。

 まあ、こうした饒舌なメロディラインはもちろん何もコブクロに限ったことではなく、誰でもやっていることです(ヒップホップとかだと、トラックをループさせる関係でほとんどないんじゃないかと思いますけど、それはまた別の話)
 ただ彼らの場合は、かなり意識して取り入れているように感じるんですよね。分析してみるとやたら過剰で冗長に思えるんですけど、聴いているとそうは感じないわけで。それはメロディラインにはっきりした起伏をつけていたり、ハモリの部分とソロとを使い分けたりといった部分を工夫しているからなのかなー、と感じるのです。


 さて、次は歌詞を見ていきましょう。 タイアップがドラマが「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」だったこともあり、「母親」への想いが込められているのだとか。『汗にまみれた笑顔』というモチーフや『理由なき愛のあかし』と無償の愛を想起させるフレーズなどは、確かに単なる男女の情愛というよりも、親から子への深くとりとめのない愛という印象を受けます。

 1コーラスのAメロ・Bメロは、まさに「あなた」への追慕に溢れています。「あなた」の愛を思い返し、自分の内側の暖かな感情を述べていき、…そして、そこに、『きっと きっと きっと わかっていたはずなのに』と前述のフレーズがやてきます。大きな山場になるメロディラインに乗って、それまでをひっくり返す逆接の「なのに」。穏やかな物語は、ここで急転し、悲劇の存在を提示するのです。

 そしてサビで登場するのは、タイトルにもなっている主要モチーフの「蕾」です。『消えそうに 咲きそうな』と表されていますが、この表現はちょっと不思議ですよね。蕾とは、花咲く前の段階のもの、やがてくる「春」や「花」を予感させるものとしての性質があります。それを「消えそうに」と表すのは、やや違和感があるわけですね。
 なぜそんな修飾をするのか。それはメロの最後でどどっと沸いて出てきた「悲劇性」を受け継いでいるからですね。幸福な未来の前触れである蕾をあえて「消えそう」と歌うことで、危うさも同時にもたらすのです。

 メロで描かれているのは、主に「あなた」からの想いを一身に受けてきたことを思い返し(1コーラス)、「僕」のこれから生きていく決意を語る(2コーラス)という、「僕」の胸中をつづった、穏やかで暖かい感動を揺り動かす流れです。
 その一方で、サビは、今この季節の風景の描写が連なります。それは、「消えそうな」蕾であったり、『掌じゃ 掴めない』花びらであったり、『五月の美空は 青く寂しく』とあったり…美しい風景ながらも、どこか儚げで危ういのです。そこには、悲劇の香りが漂っています。「東京タワー」のストーリーを知っている人なら、容易に照らし合わせられるような形で。

 つまり、この曲は、「穏やかさ・暖かさ」と「切なさ・哀しみ」の両方を取り入れている詞になっているのですね。その結果が、『消えそうに 咲きそうな』蕾、という表現に端緒に表れていると言えるのではないかなと。

 ただ「あなた」の思いに感謝し強く生きていこうとするだけではなく、ただ「あなた」が側にいない、『どこにも もう戻れない』寂しさに終始するだけでなく、どちらの感情も描いてみせる。折り重なった感情がこもっているので、この「あなた」との物語は、ドラマティックに聴こえるのです。


posted by はじ at 19:32| Comment(0) | TrackBack(0) | J-POPレビュー男性(か行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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