2007年04月04日

柴田淳「HIROMI」

HIROMI
HIROMI
posted with amazlet on 07.04.04
柴田淳 重実徹 羽毛田丈史
ビクターエンタテインメント (2007/01/11)
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<虚飾に満ちた別れの場面を冷ややかに見つめながら、それでも尽きない想い>

 別れの歌というと、ほんの少しのすれ違いなのに、まだ好きなのに…という切ない感情を描いたり、また幸せな日々の思い出を回想したりと、何かと美しく哀しく彩られがちなものです。
 しかし、この曲はまったく違うんですね。むしろ、そうしたある種「J-POP的な別れ」を演出しようとする相手を、醒めた視線でもって受け止めているんです。

 別れを告げる「あなた」は、哀しげな表情をしています。「私」のためなんだ、と自分の苦渋の決断をアピールし、さらには涙さえ流します。
 しかし、それはすべて『私のためなんかじゃない』のです。『見抜かれてないと思ってる/その程度しか通じ合えてなかった』なんていう、失望のため息が聞こえてきそうなきっついフレーズ。こんな言葉がさらりと出てくるほど、「私」にとっては「あなた」の嘘は前々から気がついていたことで、だから、「あなた」のこの『明日から気兼ねせず あの子に会うために』、キレイに決着をつけてしまおうとする「別れ」の演出は、出来の悪い茶番としか感じられないのです。

 何かとキレイに描かれがちな別れの場面には、往々にしてこうした冷ややかな視点が存在するものです。でも、あえてそこは見ないフリを決め込んで美しい面だけ描き、聴き手を浸らせるのも歌のひとつの切り口です。
 対してこの曲の場合は、相手の「嘘」を見抜いていたという設定を使って、冷ややかな視点からの生々しい感情をつらつらと綴っているわけです。その赤裸々ですっぱりとした本音は、別れ際に「嘘」をついた覚えがない身でも肝が冷えるくらいです。この淡々とした生々しさが、キレイに飾らない本音が、柴田淳という人の持ち味なのですね。


 さてこの曲、ただ相手の「嘘」を白々しく見つめるだけの歌ではありません。
 「私」は、「あなた」に思いきり幻滅しながら、しかし嘘を暴こうとせず、怒鳴りもせず、「あなた」の演出を壊すことなく付き合います。『微笑んであげたの』というのはむしろ激昂するよりも怖いですが、そんな態度にはちゃんと理由がありまして。

 『ステキな思い出にさえ させてくれなかったね』と、ここに「私」の偽りのない本心が隠れています。「ステキな思い出」にしたかったのに、バレバレの「嘘」をつかれたことでその願いは消えた、という。逆に言えば、「あの子」に「あなた」の気持ちが傾いているのを知っていた「私」は、せめて二人の日々を「ステキな思い出」にしたかった、ということになります。
 『見え透いた嘘ついて 嫌いにさせたって/思いたいよ 思わせてよ』なんかを見ると、いっそう顕著です。別れを告げられることを否定したいという気持ちよりも、むしろ、バレている嘘をつく「あなた」の無様さを信じたくないという気持ちのほうが強そうに感じるんです。
 つまり、ひどいフラれ方を体験しているこの瞬間にも、まだ「私」は「あなた」を愛しているんです。

 さらに、曲の最後に出てくるサイズの合わない指輪のエピソードも秀逸なんですが、長くなりすぎるのもなんなのでカット。とにかく、やたらと内容の濃い一曲です。
 嘘の演出に彩られた別れを表向きは受け止め、水面下では非難と幻滅を、そしてそれでも捨てきれない想いを、一人で抱えようとする。別れを一面的なキレイさでは描かずに、愛憎が入り混じる複雑な感情で満たしているわけですが、でも現実にはやはりこういう本音はあるのでしょう。冷ややかで生々しい、等身大の感情を描こうとしたからこそ、「HIROMI」という固有名詞がこの曲にはつけられたのではないでしょうか。


posted by はじ at 02:18| Comment(2) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(さ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
安室奈美恵さんの大ファンではありますが、他にも色々と聞きます。

柴田淳さん良いですよね。あの透明感のある歌声がとても癒されますし、ルックスもそこそこ良いし、もっと評価されても良い女性歌手だと思ってるんですけどね〜

ちょっと釈由美子に似てますよね?
Posted by パンダ at 2007年04月08日 19:39
釈由美子…あー、似ているという心理はわかる気がします。同じ系統の顔つきですよね。

個人的には、大々的に売れちゃってもどうなんだろう…という気もあるんですよね。何せかなり病んでいる世界なので。
でも、彼女のような音楽世界もあるんだ!っていうことはもっと知られてよい、とも思うのです。ヒットするというより、存在感のあるアーティストになってくれればいいなあと。
Posted by はじ(管理人) at 2007年04月11日 00:41
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