熊木杏里 中島信也 吉俣良
キングレコード (2006/11/22)
売り上げランキング: 13744
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<忘れきれない気持ちも「さらっと」歌ってのけるフォーク感>
資生堂のCMで流れ、一時期話題になったシンガーソングライター熊木杏里の楽曲。『ほんじつ私は ふられました/わかっていました 無理めだと』というイントロ無しの歌いだしは、柔らかな声で響くわりにはインパクト大ですね。
楽曲の緩やかさもそうですが、ですます調の歌詞もまた、フォークっぽさを醸しだしています。以前一度ぜひ聴いてみてほしいというリクエストがあって、アルバム「無から出た錆」をレビューした時にも感じましたが、ゆず以降のネオアコ路線ではなく、本当に「古き良き」フォークの香りがする歌い手です。
ふられたことを受け止め、『泣いて泣いて 泣き明かしたら』生まれ変わって=立ち直っていこう、というシンプルな筋立て。ところどころに挟まれる、『あの時少しだけ/ほほえんでくれた ような気がしたから…』など、自信はなかったけど、それでも…というエピソードがいい味を出していて、告白までのいじらしい想いを感じさせるのが心憎い演出です。
たぶん、「あんなに好きだったのに!」とか、髪を振り乱すようなべっとりとした後悔ではないところが、彼女の持ち味と相性がよかったんでしょうね。好きだったことも、気持ちが通じ合わなかった悲しみも、さらっと歌ってしまう感じ。
この曲、男の人が優しい声で歌うと、より昔のフォークっぽいなあと思ったんです。あの時代ってそういう曲けっこう多いですよね。「神田川」とか。それは、女性視点の歌を男性が歌うことで、込められた感情をさらりと表現できるからなのかな…と。そして彼女は女性でありながらその「さらり」感を出せているという、これはなかなかすごいことなのではないかなと。声の資質もそうさせるんでしょうし、やっぱりそうしたフォークを経由しているからでもあるんでしょうね。
『忘れます 忘れます』と歌いながらも、『忘れられると思います』と断言できないあたり、まだショックから立ち直りきれていない雰囲気。
ま、そもそも『忘れます 忘れます/新しい私になって』という順番からしてもそうですよね。「新しい私」になって「あなた」のことを「忘れます」というんじゃなく、先に「忘れます」が来る。「私」を生まれ変わらせようとするよりも、「あなた」を忘れることが先、「あなた」がまだ大きな割合を占めているんだろうな、とも感じられますね。