2006年11月21日

柴咲コウ「invitation」

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<内面から出てくることはなく、しかし別れのあとにもきっと続いていくだろう感情>

 この夏、映画とドラマで大きな話題を巻き起こした作品「タイヨウのうた」。映画版での主題歌は主演クレジットが混じっているYUI for 雨音薫「Goodbye days」でしたが、そのあとを受けたドラマ版は柴咲コウ。すっかり当たり前のように自身が出ていないドラマ主題歌を歌うようになっていますが、これって珍しいケースですよね。むしろ最近は自分の出演するドラマは歌っていませんし。「世界の中心で、愛を叫ぶ」は映画版に出演してドラマ版は「かたち あるもの」で主題歌を歌う、というよくわからない事態になっていましたし…
 この人の書く詞は感情移入型ではなく、どこか客観的な視点から言葉を紡ぐフシがあるので、そういう意味では主演+主題歌とかにはむしろ向かないのかなあとも思いますが。

 ハイテンポで進む、ピアノがジャジーさを漂わせつつ、夏の海岸の情景を描いている一曲。タイアップ先のお話の舞台が湘南だということからか、『路面電車』も登場します。しかもサビ頭ですから、すごいインパクトです。
 この路面電車をはじめ、具体的な単語が多数登場しているのが特徴で、しかも夏っぽさを意識させつつ、ありふれた描きかたではなくわざと断片的に、ぼかして書いている感じ。これは『いつもの通り道で待ち合わせ みんなでしよう』とか『どうせ海岸かそこらあたり』とかの不明瞭な言い方とともに、≪自分の頭の中のよしなしごとをそのまま出している≫ような印象を与えられます。誰かに呼びかけている、いやその前に文章に書き出してはいるものの、そうじゃない、脳裏に浮かんでは消える取り止めのない思考の泡を取り出しているんだ、といったように。
 つまりこの詞は、誰かに届けたい言葉ではなく、ある夏のひとコマにおける自分の内面の自動筆記、という体裁なのですね。自己完結している、ということです。だからいまひとつ意味が通じないような部分もあり、「いつもの」「みんな」などに何の説明もなかったりするわけですね。

 『ボーダーか焼けた肌かワンピース/個性はないけれどかわいくてうらやましい』なんかには、夏に憧れつつも一歩距離のある立ち位置を感じることができます。「みんな」の輪の中にいながら、あれこれと思考は目まぐるしく移り変わります。その中で、『みんな前 見てるすきに/ぎゅっと手を引いてほしいんだ』『どこから恋になったのか…』と、仲間のうちの一人である「きみ」への想いが挟まれます。それとなくモーションをかけたりもするけれど、だけどやっぱりいまの関係も心地よくて、一線を越えることはできないまま。
 そして、『もしかしたら僕ら最後かもしれないけど』と、なんとなくではあるものの、別れを予感しています。しかし、「きみ」への感情も、別れの予感も、まったく口に出すことも表現することもないままで、そんな自分自身を「懐しのラムネ」の泡にたとえて『なんにも出来ない僕の気持ちの表れ』と言ってみたりもしています。
 言葉で「きみ」やほかの「みんな」に感情を表すことはないまま。でも、そんな思いを内側に抱えているからこそ、夏の湘南の情景のひとつひとつが胸に迫ってくる。きっと『「過ぎた夏の記憶」に収まる』…「過去にしたくない、後悔したくない」ではなく、「過去になってもただひとり思い続ける」そんな種のセンチメンタリズムがこもっている一曲です。

 にしてもこの人は、速い曲になると、やたら難しくセンスが必要な音楽になりますね。「Glitter」とかもそうですが、リズムがかなり崩されていて、一筋縄ではいかない感じ。一般的にはバラードイメージが先行している歌い手だと思うのですが、そうではない楽曲で他にない個性を出してうまくバランスをとっているのかなと。


posted by はじ at 22:51| Comment(4) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(さ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
柴咲の場合は主演とかが自身と同じ事務所だから主題歌も同じ事務所内ってことだと思います。<br />
同様に松たか子も前逃亡者の主題歌歌ってましたが、主演の江口とは同じ事務所。<br />
結局同じです。
Posted by 硬水 at 2006年11月22日 17:36
あー、なるほど。事務所のつながりはありそうですね。<br />
松たか子もそういえば似た傾向がありますよね。こっちは演じている作品で主題歌まで歌われちゃうとちょっと興ざめかな、という感じはしますね。柴咲コウの場合も多くの人にとって同じなのでしょうか。
Posted by はじ(管理人) at 2006年11月22日 23:28
世間的にはこのドラマの主題歌は沢尻の「タイヨウのうた」と思ってる人が多いと思います。実際CMとかでも主題歌ではなく挿入歌のほう流れてましたし、柴咲のは知名度かなり低いのではないかなー。
Posted by 硬水 at 2006年11月23日 09:15
確かに。沢尻のほうがヒットしましたしねー。<br />
こっちはこっちでストーリーの一端を切り取っている(んでしょう、想像ですが)わけですが、やっぱり「感動系ドラマ」という文脈でとらえられているぶん、登場人物本人が歌うバラードのほうが反響呼ぶよなあ、という印象です。<br />
特に沢尻エリカの場合、「1リットルの涙」主演だったというのも大きいでしょうしね。そのぶんも背負ってのヒットだったんじゃないか…という気も。
Posted by はじ(管理人) at 2006年11月24日 00:03
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