2006年05月03日

宇多田ヒカル「Keep Tryin'」

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<話しかけるような親近感をベースに、「こっそり頑張りたい」みんなを「挑戦し続ける」まで導いていく>

 復帰後3作目。今回は「Be My Last」のように内向きの音楽ではなく、また「Passion」にあったような幻想志向もなく、ぐっと外向きで現実的な「強さ」を呼びかけるメッセージになっています。
 単なるありきたりなメッセージソングと違うところは、大まかに言って3点。

 まず、非常に砕けた口調であること。これは元々あった傾向ですが、今回は特に『とっても気にしぃなあなたは少し/休みなさい』『どんぶらこっこ/世の中浮き沈みが激しいなあ』とか、いわゆる「歌詞」として飾り付けない素のままのメッセージっぽい雰囲気があります。歌というよりは、つぶやきっぽい感じ。

 第二に、現実的であること。
 たとえば『月夜の願い 美しいものだけれど/標的になって 泥に飛び込んで』なんてあたりを読むと、意識的に現実を語ろうとしているのが感じられます。上の「歌詞っぽくない」にもかかってきますが、お笑い番組とか遅刻したとか恋人がサラリーマンだとか車掌さんだとか、かなり具体的であんまり歌詞中では見かけないような単語が並んでいます。「長い道のりを一歩ずつ進んでいこう」や「月の光に願いを込めて」など、抽象的でなんとなくかっこよさげに聞こえるフレーズを並べるのではなく、現実的な身近さ、悩みを相談した友達に勇気付けられるような親近感を与えようとしているのですね。

 それともうひとつ大きいのが、「実はみんななんだかんだ言ってもっと頑張りたいはずなんだ」という観点が、はっきりと表れているということ。
 『どうでもいいって顔しながら/ずっとずっと祈っていた』。『ほんとは誰よりハングリー』。『クールなポーズ決めながら/実を言うと戦ってた』。がむしゃらに頑張るのはカッコ悪い、と思われがちな今の時代、みんな表面上はそれに合わせているけど、実は影では頑張っているし、もっと頑張っちゃったっていいんだ、と後押しする言葉がたくさん散りばめられているんです。
 主題はタイトルにもあるように「挑戦し続けよう!」ということです。が、ただ真正面から呼びかけるだけではないんですね。「実はもっと前に進みたいって気持ちもあるんでしょ?」と投げかけ、「チャレンジしようと思うのは『バカみたいなんかじゃない』」というようにフォローしてあげる、というプロセスが曲中に組み込まれています。

 そういうわけで、やっぱり外向きのメッセージを書くとつくづくこの人はうまいよなあ、と感心することしきりです。
 特に言葉の選び方が独特で。世の中にはすでにある程度歌詞の定型フレーズみたいなものがあって、それはやっぱり王道で響きやすいものなんですが、それだけじゃ発展はないわけです。そういう点で宇多田ヒカルは常に新しい風を吹き込んでくれる奇抜さを持っているので、そこは評価されてしかるべきかなと。
 ただ、以前はリスナー全般にもプラスに受け止められていたこの「奇抜さ」が、活動再開後はなんだかマイナスに感じられているような空気があるんですよね。そこはもう流行り廃りの流れなので仕方ないのかもしれませんが、ちょっと残念な気がします。


posted by はじ at 11:31| Comment(6) | TrackBack(0) | J-POPレビュー女性(あ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
宇多田は自分にも頑張れってKeep Tryinって言い聞かせてる自分の応援歌でもあるみたいですよ。<br />
この曲僕は好きです。<br />
以前と比べて売れてないみたいですけど、そんなのどうでもいいっす。<br />
イイと思うので、auでも大量オンエアしてたし分かる人にはちゃんと届いてると思います。<br />
こうやってマイペース?にリリースしていってほしい。アルバムも出ますしね。
Posted by 硬水 at 2006年05月05日 13:32
そうですねー、自分も好きですこの曲。<br />
とりあえず好きな人はこれからも一定数以上はいるでしょうし、本人も難解な方向に突き進んでいったりモチベーション落ちたりはしばらくなさそうだな、ということを実感できた作品でしたね。
Posted by はじ(管理人) at 2006年05月13日 15:30
いやーこの曲ほんといいですわw自分通学で聴いてて勇気もらいます。「頑張ろう!」って気にさせられます。<br />
管理人さんはそういう曲実体験でないですか?<br />
<br />
1位を取れなかったり累計も10万ちょっとと今までの宇多田にしたら全然売れてないですけど、iTunesではダントツで1位って聞きますし、今はipodだからCDが売れてないといってもそれが、「活動再開後はなんだかマイナスに感じられているような空気があるんですよね。」にはならないんじゃないかなと。<br />
まあ仰るとおり、売上げは水物で流行ものですからね。気にしないことが一番かと思います。
Posted by 硬水 at 2006年05月14日 01:29
最近の曲ではあんまり勇気もらったりはないかなー。あんまりメッセージ系は聴いていないので…<br />
今までで落ち込んだとき悩んだときに立ち直るきっかけになった曲というと…スピッツ「日なたの窓に憧れて」、リンドバーグ「君のいちばんに…」、GRAPEVINE「here」あたりかなあ。<br />
<br />
自分の生き方の基本的なスタンスはスピッツ全般で、テーマソングはTHE BOOM「風になりたい」で、ちょっとヘコみそうな時につぶやくのは福山雅治「PEACH!!」だったりします。「負けるもんか〜」。<br />
http://haji.blogtribe.org/entry2ffcdcd6fa1ae3087e239b7feb6b0101.html
Posted by はじ(管理人) at 2006年05月14日 22:48
宇多田は今過渡期なのかなぁセールスの。作品自体は良いんですけど。<br />
<br />
そのお気に入りのキッカケの曲は管理人さんがいくつくらいの時のものなんですか?
Posted by 硬水 at 2006年05月15日 20:15
遅くなってすいません。<br />
好きな人は多いんだけど、「宇多田がいちばん好き」って層が、それほど厚くないんじゃないかなーという気もします。<br />
<br />
お気に入りはけっこう古いですねー。スピッツとリンドバーグは中学の、GRAPEVINEは高校の悩んでいた時期によく聴いていた感じだったはず。で、福山が就職活動中のテーマソングだったという。やっぱり落ち込んだり悩んでいるときに勇気付けられると印象深いものですよね。
Posted by はじ(管理人) at 2006年05月23日 00:32
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