2006年02月10日

アンダーグラフ「パラダイム/遠き日」

パラダイム(通常盤)
フォーライフミュージックエンタテインメント
アンダーグラフ, 真戸原直人, 島田昌典

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<時代においてニュートラルな立ち位置から、現代人の内向性を揺さぶる>

 じわじわチャートを登りつめヒットした「ツバサ」、そして「君の声」に続く3rdシングルです。新人でこれだけリリース間隔が開くケースって、かなり珍しいような。消費されてしまわないよう気をつけているんでしょうか。
 このアンダーグラフは、それほど大きな特色を持ったバンドではないという感じがしています。内向的な詞世界、ひずみというか含みというか、ストレート過ぎない声、どこか90年代の香りのする真っ当なバンドサウンド、どれも魅力といえば魅力ですが、ハッキリとした強みというのがよくわかりません。それでもこうしてかなりの支持を得ているのは、おそらくどこにも特化しないニュートラルな存在だからなんじゃないかな、という気がするんですね。彼らの存在や立ち位置が、今の時代のもっともスタンダードな位置にぴったりと寄り添っている感覚があるんです。それこそ今回の曲、「パラダイム」の意のように。

 「パラダイム」は本来なんだか難しい語義のある言葉みたいですが、まあここでは「同時代」とか「時代の空気」みたいな意味で捉えておけば、『光る世界とパラダイムを作るんだ』という、曲を通してもっとも重要なメッセージも理解できそうです。ま、「光る世界と同じ時代を作っていきたい」→「理想的な世界に自分も加わっていきたい」という感じでしょうか。
 そのキーになるメッセージは、裏を返せばつまり「この世界は自分の理想とは違う」あるいは「世界に溶け込んでいない自分」という「今の現実」がある、ということも同時に示します。…で、これって見事なまでにイマドキの思春期の少年少女、あるいはモラトリアムだったりアダルトチルドレンだったりするみなさんの意識にダイレクトにリンクしてきそうな感覚ですね。

 この「パラダイム」ではそんな現代の悩める若者の心理を『ねぇ 明日はどこに向かっているの?/誰が答えを持つの?』とつつきながらも、そうした「自問自答」を理解しつつ、上手い具合に「世界に同化したい」という方向へ誘導してくれるようになっています。「共感」がなければ説得力はないし、ただ「本当はできることならみんなと仲良くなりたいんでしょ?」と言っても「私は独りでいいんだ、その方が楽だ」とか反発を招いてしまいがちなところを、うまいこと導いていくのは、実はなかなか骨の折れることだと思うのです。

 時代にニュートラルな彼らが、迷える現代の子羊たちを導く手法。それは、
<1>未来を明るく見せてあげる…『明日を照らしているんだ』
<2>無理しないでも大丈夫だと優しく諭す…『何時でも一歩を踏み出せるでしょう』
 まあ<1>はいつの時代もそうっちゃそうですが、<2>に関連して、「今」は暗くたってダメダメだっていい、というのが、色濃く詞に出てきている感じがします。現在の状況を『壊れかけた世界』と表現してみたり、『僕らは過ちを繰り返して/そこから全てを学んでいく』と過ちを犯してしまう今を肯定してみたり、ですね。
 そしてそこから変わるのに、なにか無理をしたり、気合を入れまくる必要もないんだ、と優しく囁きます。『拡がる未来が手招きしてくれるのが見えたなら』と、向こうから呼ばれるからそれに同調していくだけでいいんだ、というのは、特に象徴的なフレーズです。
 聴き手へのメッセージの投げかけ方というのは、たとえば「走れ!」と奮起を力いっぱい呼びかけるタイプ、「一緒に歩んでいこう」と併走を持ちかけるタイプなどもあるわけですが、この「パラダイム」は「まずはじめは一歩ずつ、そうしたら段々走れるようになるよ」と働きかける、いわば心理療法、セラピーに近い形をとっている、と自分は感じられます。


 それに対し、映画「私の頭の中の消しゴム」イメージソングに抜擢されたインディーズ時代からの曲だという「遠き日」は、自問自答する人を導く形の「パラダイム」とは異なり、あくまでも自問自答に浸り沈んでいく…という内容になっています。外部から気持ちを理解し語りかけるのではなく、内部からまさに赤裸々に心理を明らかにしている、というところでしょうか。

 『約束を破った僕は今も/君の海を泳いでいる』。戻らない過去の「君」との記憶が、海のように「僕」を取り巻いているわけですね。「世界との同調」を指し示した「パラダイム」とは全く逆、ひたすら世界と離合し続ける…
 そして重要なのは、そんな世界と切り離された生き方が、ただ苦しいものだとは示されていないことです。「溺れている」のではないわけではなく、自ら「泳いでいる」という点ですね。
 もちろんこの「泳ぐ」は「もがく」に近いイメージなんじゃないかとも考えられます。ただ、どちらにしろ、自ら「泳ぐ」という時点で、周りを取り巻く「君の海」をある種容認しているんですね。「君の海」そのものをなくそう、振り払おうとはせず、『泳いでいく』。過去に縛られる生き方を受け入れている、ということではないでしょうか。

 「世界との離合」を否定しない。むしろそこに感傷を見出し、「泳ぐ」という語を選んだようにある種の快感さえも見出しつつ、ただひたすらに浸り続ける…この「遠き日」は、「パラダイム」と全く逆の方向ではありますが、本質的には同じ精神性を指している曲なのです。
 『積み上げた思い出を/貴方は今も覚えてますか?』この語りかけは、曲中の別れた恋人を飛び越え、聴き手に迫ってきます。想い出に縛られながら、同時代の世界と自分を隔てながら生きてみないか?というように。


posted by はじ at 00:31| Comment(0) | TrackBack(1) | J-POPレビュー男性(あ行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Excerpt: パラダイム(通常盤)アーティスト: アンダーグラフ, 真戸原直人, 島田昌典出版社/メーカー: フォーライフミュージックエンタテインメント発売日: 2005/12/14メディア: CD ..
Weblog: Hey! Barbie! Stupid Bitch!
Tracked: 2005-01-01 00:00
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