2004年08月20日

槇原敬之「僕が一番欲しかったもの」

僕が一番欲しかったもの
槇原敬之
東芝EMI

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 あー!ああー!もう!
 曲は、今までの槇原敬之を振り返ってもまさに珠玉、最高傑作といってもいい出来なのに。なのに、それなのに、なんだよこの詞。

 前回「優しい歌が歌えない」で散々言いましたが、槇原の詞は例の事件以降、現実感を伴わない抽象的なものばっかりになってしまっていて。今回は、その極みにあります。具体的なのは「僕」だけで、それもどんな人間かは描かれない。あとはみんな「素敵なもの」とか「誰か」「人」とかばかり、「それ」という指示語も出まくりです。
 寓話仕立てになっているわけですが、「僕は素敵なものを拾ったけど、欲しがってる人がいたからあげた、まあ嬉しそうだしよかった」というのを2回繰り返して、それで2コーラスをまるまる費やす必要はあったのか。すごくストーリーが薄い上に、出てくるキャストの顔も何も、具体的な事物が出てこないから、余計空疎に感じます。もうちょっとは面白く書けるはずですよ、これ。

 だけどね、曲がいい。だから感動できる。してしまう。
 まずシャッフルのリズムの穏やかな揺れがあって、メロは静かに、サビは揺さぶるように動く旋律、そしてその上に乗るハイトーンの優しさ、ドラマティックさ、説得力。歌声とメロディが見事にかみ合っていて、ほんとうに寒気がしてきます。
 「素敵なものをあげたときのみんなの笑顔が、僕の一番欲しかったものだ」と気がつくラストの盛り上がりのとことか、得体の知れない凄みがでてきていて、もう抽象的すぎるとか中身が冗長すぎるとか、細かいこと言ってないで、浸ってしまいたくなります。
 でも、やっぱり、なあ。


 まあ、今回はもともと外国のアーティストに英語で提供した曲を日本語に直してセルフカバーということで、英語だともっと見栄えよかったんだろうなあと思います。
 また、内容を寓話化、抽象化することで、なんにでも当てはまる普遍性を曲に込めようとした、という意図もあるんでしょう。

 しかし。以前の槇原は、本当に様々な、現実に肉薄した詞を書いていたわけで。細かいシチュエーションを曲ごとに設定して、言うなれば個人的な物語をひとつひとつ紡いでいたわけです。だけどそれはリアルだからこそ聴き手の共感を呼び、たくさんの人に受け入れられて、きっちりと普遍性を獲得できていたと思うんです。
 でも、もう槇原はその方向には戻っては来ないようです。「世界に一つだけの花」ではまだ「花屋の店先」の描写がありましたが、あれだって視点は登場人物というよりは歌の外、語り手、いわゆる神の視点からの書かれ方でした。「優しい歌が歌えない」では辛うじて自然だけが残り、そして今回はもう、人の顔も自然物も何も、固有のものはすっかりなくなってしまいました。

 悟りの境地に達したかのようにもとれる、言葉の連なり。それを類いまれな声で歌い上げる槇原敬之は、どこか聖者のようにも見え、本人にしても、悔い改めて世の中に報いるという気持ちが本心からあるように思えます、が、自分にはそれが素晴らしいことだとは、どうしても思えないです。

 でも、そういった状況や心境の変化から、今の曲の穏やかさや凄みが出てきている面もかなりあることは否めないので、複雑かつ微妙な心境です。
 曲はほんといいんですよ、曲は。聴いていて感動できます。でも自分はしたくないなあ、ということです。


posted by はじ at 23:37| Comment(6) | TrackBack(0) | J-POPレビュー男性(ま行) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
槇原の歌詞を調べようとしたらここにぶちあたったので読んで見ましたが俺も同じようなことを感じます。<br />
なんていうか具体的な物語がなくなってしまったのと昔の曲の焼き直しが増えた気がします。
Posted by Unknown at 2006年03月14日 23:06
固有の曲に固有のキャラクター、みたいな「具体的な物語がなくなってしまった」ゆえに、「昔の曲の焼き直し」と感じることが多くなってしまったんじゃないでしょうか。うーん。<br />
最近は少しずつ戻ってきたような気もしますが、やっぱり完全には昔には戻りはしないでしょうね。そういうものなのかなと。
Posted by はじ(管理人) at 2006年03月17日 01:02
槇原さんのライブアルバムを買って、昔の曲(Answerとか)はやっぱいいなぁと思いつつ、検索したらここに来ました。<br />
マッキーについての、はじさんのコメントに、全て激しく同意!<br />
昔の歌は、まるで短い恋愛小説を書いているかのように具体的なんで、聞きなおすと、自分の恋愛とダブらせて、当時の空気まで思い出せるのに、最近の曲は、抽象的すぎですね。悲しいです。<br />
それにしても、はじさん、本当に22歳なんですか?私は30なんですが、文章だけ読んでいて、同世代かと思いました・・・。<br />
また読ませていただきに来ますね。
Posted by りぃ at 2006年04月14日 18:44
なんというか例の事件以降の、償いというか、リハビリというか…そんな感じもあるんですよね。<br />
最近の曲を聴くと、少しずつ抽象性は薄れてきているんですけどね。うーん。<br />
<br />
年齢は偽っていないですよー。2月に23になりましたが。<br />
文体は意図的に落ち着いた感じで書こうとしています。好き嫌いをはっきりさせて書きたくない、というブログのコンセプトがあるんで。若者っぽくなくてすみません。<br />
<br />
他のレビューもぜひ読んでみてください。
Posted by はじ(管理人) at 2006年04月16日 00:36
個人的には、カチカチに物語が固められている歌詞よりも、このくらい(いい意味で)曖昧な方が、聴く人の想像力で、色んな物語作れていいと思います。<br />
ある意味、槇原さんは悟りの境地に達したのかも・・・(笑)
Posted by Unknown at 2006年09月12日 23:38
なるほど、そういう意見もあるんですね。<br />
自分としては、昔ははっきりした輪郭を持つ物語を提示し、そこに何らかの抽象的なメッセージを主張していたんですね。でも今は、ダイレクトに抽象メッセージを発するようになっているぶん、むしろカチカチのような感覚を受けるのです。
Posted by はじ(管理人) at 2006年09月16日 01:35
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