桑田佳祐
ビクターエンタテインメント (2007-12-05)
売り上げランキング: 21602
ビクターエンタテインメント (2007-12-05)
売り上げランキング: 21602
<華やかなサウンドの中に滲む哀愁>
横浜を舞台に、真冬の恋の終わりを描いた一曲です。
ベテランならではの渋みがある…というか、たとえば横浜の地名を取り入れたご当地ソングっぽい作りとか、男の哀愁が滲むようなテーマ設定とか、『いいオンナがひとり/明日へと旅立つよ』みたいなフレーズとか、実に演歌・歌謡曲っぽい。それでもこの人がしゃがれ声で歌うと、新しさとか古さとか気にならなくなるのが不思議。
今回は、『もう二度と結ばれぬ/運命と知りながら』という別れのシーンを扱っていながらも、明るいホーンセクションが賑やかに盛り上げています。クリスマスだからというのもあるでしょうし、『俺よりもいい男が/いるならそれでいいのさ』と、自分と離れての相手の新たな人生を送り出す、というはなむけの意味も込められているのかもしれません。
しかし、笑ってさよなら…というだけの歌でもないように感じます。それはフレーズの端々からも漂っていますが、特に、横浜の名所の部分が、胸に隠した哀しみを物語っているかのようなんですね。
『中華街で酔って朦朧/振り向けば山手のチャペル』なんていい例で、華やかに送り出そうとする一方で、自分は飲まずにはいられない。そこに響き渡る幸せそうな鐘の音が、より孤独を色濃くしているわけです。そんなふうに、賑やかめな楽曲も、押し隠した辛さを裏に持っている、と考えていいのではないでしょうか。
『本牧埠頭で泣いて Walking』なんてのも物悲しいです。本牧埠頭からは横浜ベイブリッジが伸びていますが、対岸の大黒埠頭のようにデートスポットになっているわけでもない、だだっ広いコンテナターミナル。夜、独りで歩くには、寂しすぎる場所なんじゃないでしょうか。
こうして、実際の場所から主人公の心情を滲ませる手法は、まさに演歌の世界からある手法です。具体的なイメージがあるぶん、聴き手の想像力を刺激しやすいのです。
そんなわけで、『泣いたのは幸せな/お前が見れたから』…という言葉も、ほとんどは強がりなのでしょう。寂しさは表に出さず独りで噛みしめる、そんな男の哀愁が感じられる一曲です。