<孤高なイメージを描きながら、その内側には浸らない>
デビュー20周年、ユニコーンとソロのトリビュートアルバムが2枚一斉に発売などが話題となった奥田民生。が、本人のには相変わらず大きな動きはなく、その活動はマイペースな印象を受けます。
今回の「無限の風」は、じりじりとした低音のギターで始まり、腰の据わった重さを感じさせる、いつもよりも少々硬派なミドルテンポ。その歌詞もまた、『強い風 止まない風 白い羽根 折れない羽根/追い風 無限の風 大陸を 動かす風』と単語を重ねて厚みを増していく、とても真っ当な技巧を使ったフレーズに唸らされます。
リラックスした感じや軽妙さも彼の持ち味ですが、今回は基本的にマジメ。全体的にはいつもどおりの範疇にはありますが、何か節目の年に改めて決意を固めるような、そんな雰囲気も漂わせます。
ただし、『荒野の風になって 砂漠の風になって/遥かに手を伸ばして 空に叫ぶのさ』なんてカッコいい行動を取っているのは、語っている自分自身ではありません。カッコいいのは「あいつ」なのです。
荒野の中をひとりただ進んでいく。そのイメージは、落ち着いた曲調とも合わせ、寡黙ながらもハッキリとした意志を持つ力強さを感じさせます。が、自分自身をそこに置いてヒロイズムに酔うわけではなく、象徴的な「あいつ」をそこに置くことで、「カッコつけ」感を削ぎ取っている…んじゃないかなと。
そこまで考えて詞を書いているわけではないのでしょうけれど、自然と奥田民生らしさが出ているポイントだなあと。もしこれが「俺」だったら、もっと軽い言葉も入ってきそうですし。
それにしても、「風になる」という点では同じなのに、秋川雅史「千の風になって」とはまったくもって異なる方向性を感じますね。あちらが、解き放たれた「自由」や「救い」そして「結びつき」を象徴しているとするならば、こちらの「無限の風」はそんなに優しいものではなさそう。ただ独り、ひたすらに進んでいく「孤高」な雰囲気を纏っています。それこそが、憧れるようなカッコよさに繋がっているわけですけれど。