フジファブリック 志村正彦
EMIミュージック・ジャパン (2007/11/07)
売り上げランキング: 1982
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<淡々と綴られる想いの裏に潜む奥行き>
往年の名作ドラマを思わせるタイトルですが、中身はとても叙情的で郷愁を漂わせるミディアムバラード。
季節は「夏の終わり」で、かつ「花火」が登場するという、郷愁モノとしては非常に王道まっしぐらなシチュエーション。ベタな素材を使っているのですが、ポイントは、それをとてもあっさり味で調理していることです。
夏というのは、何かと印象深い季節です。それが今、ゆっくり終わろうとしている。しかし、主人公の思考には「まだ終わらせたくない」とか「戻りたい」というような、夏を惜しむような心情は浮かんできません。せいぜい、『それでもいまだに街は 落ち着かないような 気がしている』と、客観的な視線で、(自分以外が)なんとなく名残惜しんでいるようだ、くらいの思いしか語られないのですね。
それは、「最後の花火」を見ていても同じ。「忘れたくない!」というような激しさ強さはなく、『何年経っても思い出してしまうな』という、ぼおっと感じたというような言い方をしているわけです。
そんな淡々とした感覚は、「夏の終わり」という舞台に重ねられているひとつの恋にも、同様のことが言えます。
同じリズムで区切られたメロディラインに乗るのは、『ないかな ないよな きっとね いないよな』と、もごもごと言葉を口の中で滑らせていくような、歯切れの悪い想いなのです。はっきりすっぱりともせず、ひたすらに悩み抜いているというわけでもなく、まるで他人ごとかのように『会ったら言えるかな』なんて考えてみたりする。気持ちがどっと盛り上がることがないのですね。
ただ、そんな激しさのない淡々と綴られる感情や、まるで自分から切り離されたかのような感覚こそが、この楽曲をやたらと叙情的にしているし、ふっと温度が急に下がるような感覚に襲われる「夏の終わり」に、ちょうどぴったりと寄り添っているように思うのです。
楽曲の作りは、かなり盛り上がるようにできています。サビ前の昇っていくピアノや、『まぶた閉じて浮かべているよ』なんて、とてもドラマティック。このサウンドの盛り上がりは、淡々とした歌詞の裏側に、押し隠している想いの存在を指し示しているかのようでもあります。
そう、一見ひたすら起伏なく綴られているように思える言葉も、実際はそうではないんじゃないか、わざと見せないようにしているんじゃないか…この曲の歌詞は、そう推測できるのです。続きを読む