GOING UNDER GROUND 松本素生
ビクターエンタテインメント (2007/10/17)
売り上げランキング: 401141
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<強くしなやかに現実を見据える新境地>
胸キュンロックバンドとしてすっかり確固とした地位を築いたGOING UNDER GROUND。すっかり安定感を身につけ、安定した活動をしている彼らですが、今回のこの楽曲は特に「新しい」と感じたので、その辺りを書いていきます。
ラブソングもいいんですが、個人的には「サンキュー」や「ハミングライフ」といった、恋愛要素のないメッセージソングのほうが好きだったりします。言葉の切り取り方や音の響かせ方が巧くて、それに何より疲れないメッセージを投げかけてくれるのが一因なのかなと思います。
シリアスになりすぎず、こうしたほうがいい!と肩に力が入ってしまうことなく、届けてくれる言葉。そうした彼らの歌詞世界が、この「さかさまワールド」ではさらにもう一歩前に進んだように感じるのです。
『今見てる世界が 全部ウソだっていいさ』と、ばっさりと言ってのけるのにまず驚き。もちろん、投げやりになってしまった、厭世的になってしまったというわけではありません。世界がウソだったとしても自分は揺るがない、そういう強さをさらっと主張しているフレーズなのです。
この手の「清濁併せ呑む」といったスタンスを示す歌は、Mr.Children「フェイク」、平井堅「fake star」など、ちょうど流れができつつあるようにも感じます(3つパッと挙げられるだけで「流れ」といってしまっていいのかは注意するべきところですが)『ニセモノ』も受け入れてしまおうという強靭さを描く一方、そういう主張をしなければならないほどフェイクが世に氾濫している…という意識も、逆説的に感じさせられるスタンスです。
ただ、この歌は、そこだけに留まりません。
『同じ夜を過ごしても 一人ぼっちで歩いてく』
『「きっと僕らはずっと友達」なんて言葉にすればウソだし』
と、あえてネガティブな想いをズバズバと口にのぼらせていきます。これでひねくれたり露悪的だったりに聴こえないのが彼らの純粋なイメージのなせる業で、実はすごいところなのですが、とにかくこうして現実的な本音をどんどん並べていくのです。
でも、そこには常に前向きな意志があります。『ありもしない架空の世界を探して旅してる』ことを笑われたり悲しみを抱えることだと書きながらも、それを否定する言葉はありません。時間は戻らないとすっぱりと受け入れた後で、『全てはここから始まる』と宣言してのけてもいます。世界がたとえウソでも、『僕らには消しゴムでも消せない名前がある』と、臆することなく堂々としているのですね。
「夢から覚めなさい」とか「現実を見ろ」といった類の言葉は、往々にしてネガティブな文脈で使われます。しかしこの楽曲は、それをポジティブに変えて呼びかけてきているわけですね。
そんな中でも、特に『今日が昨日を超える事がきっとなくても/僕らは待っている』というフレーズが興味深いポイント。進歩史観の鎖とでも言いますか、「明日こそ」と先の未来に期待を持って発奮を促す言葉が、J-POP内に留まらず世間に溢れている中で、過去を超えられなくてもいい、超えようとしなくてもいい、と呼びかけるのは、これはなかなか凄いことです。
まあ、「超えなくてもいい」というか、それでも超えたほうがいいし超えようと頑張るべき、というメッセージだと読むのが正しそうな気もします。また、超えなくてもいいのは「今日」なので、それは「明日」に「昨日」を超えるための一息休憩のつもりなのかもしれない、という含みはあります。
でも、どちらにしろ、聴く側をぐっとラクにしてくれる一言だよなあと思うのです。この点が、先に述べた「疲れないメッセージ」という彼らの歌詞世界の特徴を受け継いでいる部分だなあと。それでいて全体には、今までよりもぐっと先に踏み込んだ呼びかけになっているわけです。
現実的な視線をポジティブに語る強さ。さらに加えて、受け取る相手をすっとラクにできるような柔らかさ。ふたつを揃えた一曲になっているなあと。続きを読む