ET-KING NAOKI-T SHANTY-NOB
UNIVERSAL J(P)(M) (2007/09/12)
売り上げランキング: 5230
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<「ハートフルな語り」の新潮流>
このところ、ハートフルなテーマをリリックに乗せて歌い、人気を拡大してきているHIPHOPユニットです。
日本のヒップホップシーンでは、曲の中でひとつのストーリーを組み上げストリングスを取り入れて感動的に演出する、ハートフル系の流れが定着してきたように思います。で、大切な人への感謝の気持ちを赤裸々にメッセージに託す、といった形をとるリスペクトソングは、そうした一派はもちろん、他のユニットにも見られる傾向です。
古くはまず、Dragon Ash「Grateful Days」があります。その後、2001年に三木道三「Lifetime Respect」が大ヒットします。これ、正しくはレゲエですが、ただこの曲が世に出たことによって「砕けた言葉で」「赤裸々な気持ちを」「音程のあるラップ調で語り連ねる」という様式が、一般に浸透するわけです。
で、ケツメイシ「トモダチ」「涙」あるいはちょっとジャンルは外れますがORANGE RANGE「花」などの哀愁泣き系統や、Home Made 家族「サンキュー!!」THC!!「オメデトウ」湘南乃風「応援歌」といった、恋人や家族や友人、周りの人に感謝の気持ちを捧げるタイプの系統がどんどん現れていきます。端的に言えば「語り系」でしょうか。普通に話すようなトーンなので生の言葉っぽさを出せつつ、かつコードに乗っているぶん感動が増幅する、そんな生かし方をしているわけですね。
前置きが長くなりましたが、ET-KINGは一作前の「愛しい人へ」は恋人へ、その前の「Beautiful Life」は仲間へのメッセージを込めている作品で、ストーリー性もありかなり「語り系」の要素が強いユニットです。
今回の「ギフト」では、『それこそこの世でたった一つの贈りものなんや』『One life もろたもんは生き甲斐』など、関西弁を駆使。関西弁は彼らのホームグラウンド性を表すだけでなく、感情と馴染みやすく、より親しみやすさを強調する効果があるのですね。 この分野だと次のブレイクはFUNKY MONKEY BABYSかなと思っていたのですが、こちらは関西弁なぶん親しみやすさを強めに出せるので、その点は有利ではないかなと。
この関西弁による効果を意図的に狙っていることは、他の楽曲やこの曲内でも場所を選んで混ぜ込んでいることから伺えます。もっとも繰り返されインパクトのあるサビでは、「一生 忘れられへん」ではなく『一生 忘れられないよ』としていますし、『知らず知らずのうちに/どれだけ救われたんだろう』など、シリアスな部分ではずっと標準語で押し通しています。でもって、ラストは『ほんまにありがとう』で締める、と。
ふたつのイントネーションが混ざっていると、なんだかまとまりが悪い、完成度が低いというように感じる人もいることでしょう。しかし、自分の胸中は標準語/「お前」への呼びかけになると関西弁、とある程度使い分けていますし、また真面目に伝えたいけど照れが混じる、みたいなイメージもできますから、決して悪いことではないんじゃないかなと。
あと注目したいのは、抽象的/一般的な描写からはみ出し、具体的なエピソードを提示しているという点ですね。「手紙」あたりはまあありがちな小道具なんですけど、『雑誌に載ってた流行りのシャツ』を見つけて届けてくれたことにグッとくる、なんてあたりは、かなり細かいエピソードですよね。
湘南乃風にもこうした傾向があって、これはまたそうしたフレーズが好まれる潮流がじわじわと来ているってことなのかなーと。今後、こうした「語り系」ハートフル派を中心に、注目しておきたい点です。